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大阪地方裁判所 昭和56年(わ)2039号 判決

本籍

大阪府東大阪市西石切町二丁目四六六番地の一

住居

同市池之端町五番二五号

東大阪市議会議員

辰巳政春

昭和一一年一月二二日生

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官鞍元健伸出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一、被告人を懲役六月及び罰金二〇〇〇万円に処する。

一、右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

一、訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪府東大阪市旭町二二番二三号に主たる事務所を置き、組合員の事業の用に供するための工場団地の取得、分譲等の事業を行うことを目的とする東大阪作業工具工業団地協同組合(代表理事道本佐一郎)(以下「組合」という。)の専務理事として組合の業務全般を統括しているものであるが、組合の業務に関し、法人税を免れようと企て、組合が公害防止事業団から購入した工場用地を仕入れ値より高額で組合員に再分譲しながら、これを除外し、同五二年一一月一一日、同市永和二丁目三番八号所在の所轄東大阪税務署において、同税務署長に対し虚偽の休業届を提出するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五二年四月一日から同五三年三月三一日までの事業年度における組合の実際総所得金額が三億七一九万三九一三円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、組合の法人税確定申告書の提出期限である同五三年五月三一日までに同税務署長に対し法人税確定申告書を提出せず、もって不正の行為により組合の右事業年度における正規の法人税額一億二二六五万四五〇〇円を免れ、

第二  昭和五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度における組合の実際総所得金額が五四七六万一八九七円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、組合の法人税確定申告書の提出期限である同五四年五月三一日までに同税務署長に対し法人税確定申告書を提出せず、もって不正の行為により組合の右事業年度における正規の法人税額二九八二万五二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書二通

一  収税官吏の被告人に対する各質問てん末書一〇通

一  被告人作成の「確認書」と題する書面

一  検察官、弁護人作成の合意書面

一  証人義之肇、同山田隆三、同樫本修、同青山喜造、同杉本国次、同前畑博、同山中寅吉、同林博信、同宇佐美準一、同小高勇、同山中政夫、同中曽修、同坂本好司の当公判廷における各供述

一  公判調書中の証人道本佐一郎(第三、四回)、同義之肇(第五、七回)の各供述記載部分

一  当裁判所の証人深沢和人に対する尋問調書

一  義之肇の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の杉本国次、佐藤晴(二通)、秋本次郎、池端司に対する各質問てん末書

一  田中秀和作成の供述書

一  阿久津孝志、中川藤三郎、北野和男、石田政萬(二通)、田中幹夫(三通)、井村義晴(二通)、小畑泰道、矢倉喜矩(三通)、重政七男、林信温、松本勝利、太井久和、毛利敦、八尾聡、塩井泰宣、井森茂、高橋良三、森本淳土、森藤明彦、国井督久、大川博司、田中雄二、村上寛二、出口ヤスエ、北田安治、中曽修、三村龍三、山地泰介、角谷国雄、浅野章、宇佐美礼子、久司恵勇、八馬功、杉本昌也(二通)、伊賀誠次、田中秀和、竹森啓祐、足立伊世子、堀川房郎、箕村太郎、小高勇、藤枝花栄、岡秀夫、樫本隆之、山中寅吉、青木邦夫、米田春隆、吉田忠明、坂巻絢子各作成の「確認書」と題する書面

一  収税官吏作成の査察官調査書三八通

一  大阪法務局東大阪支局登記官作成の法人登記薄謄本

一  収税官吏作成の脱税額計算書二通

一  押収してある東大阪作業工具工業団地協同組合五三年三月期元帳一綴(昭和五六年押第六四三号の一)、東大阪作業工具工業団地協同組合四七年三月ないし五四年三月期決算報告書綴一綴(同押号の二)、東大阪作業工具工業団地協同組合と表記の綴(フアイル共)一綴(同押号の三)、領収証(袋とも)一綴(同押号の四)、東大阪作業工具工業団地協同組合関係と題する書面二枚(同押号の五)、東大阪作業工具工業団地協同組合関係書類(封筒共)一綴(同押号の六)、請求書領収証(コピーを含む)一綴(同押号の七)、支払金額明細六枚(同押号の八)、(株)前畑鉄工所振替伝票四枚(同押号の九)、東大阪市企業団地協議会綴一綴(同押号の一五)

(弁護人の主張に対する判断)

一  組合が公害防止事業団から譲受け、組合員に再譲渡した土地の売上代金の計上時期につき、検察官は、組合員が組合に頭金を支払い、残額の割賦代金が確定し、土地の引渡しを受けた時点であると主張するのに対し、弁護人、被告人は、昭和五六年三月二五日、組合が事業団に割賦金を一括弁済した時点であり、それまでに組合員が組合に支払った金員は仮払金であって、土地の売買代金ではないと主張する。

そこで検討するに前掲各証拠によれば、以下の事実が認められる。すなわち、組合は公害防止事業団と昭和四六年三月三〇日、第一次分譲契約を、同五一年三月二九日、第二次分譲契約を締結し、何回かの契約内容の変更があったのち、結局第一次分については、四万三六七七平方メートルを代金一四億一二二〇万円で、第二次分については、一万七四九四平方メートルを代金六億四八七五万円で譲受けたこと、第一次分については同五〇年九月二二日、第二次分については、同五二年五月一四日、各土地の引渡しを事業団から受けたこと、代金の支払いについては、代金総額の五%を頭金として支払い、残金は一五年間の割賦弁済とする約定であった。組合は事業団から譲受けた土地を公害防止用の工場用地として組合員に分譲することを目的としていたが、組合は、事業団との譲渡契約書により、組合員に対する再譲渡については、事業団作成の「公害防止事業団建設施設の再譲渡基準に関する達」に則り行うことを義務付けられていた。右達によると、組合員に対する再譲渡についてはその時期は原則として組合員が事業団の譲渡した土地に全員移転し操業を開始した後とすること、再譲渡契約は、事業団の承認を得たうえ、組合、組合員、事業団の文書による三者契約によること、再譲渡価格は、事業団の譲渡価格から算出した原価によるべきこととされていた。

しかし乍ら、被告人は、義之肇とともに組合の資産を自己らの用に供するため、右達に違背して、原価に利益を上乗せした金額で組合員に土地を再分譲することとし、自己らの悪事の露顕をおそれて契約書等の証憑書類を作成しないこととした。各組合員に対する再分譲価格頭金割賦金の額、支払状況、土地の引渡時期は、検察官、弁護人作成の合意書面記載のとおりである。各組合員は、各土地の引渡しを受け、工場の建築にとりかかったが、被告人らの組合に対する背信行為が発覚した後、組合は事業団に残金を一括弁済し、昭和五六年には各土地につき各組合員に所有権移転登記を経由するに至った。

以上の事実を認めることができる。

そこで、組合の組合員に対する再譲渡契約の売買代金の計上時期を検討することとする。一般にかような売上の計上時期については、法律上権利を行使することができるようになったときと解すべきであるが、本件においては、契約当事者間で売買代金が確定し財貨(土地)の占有移転がありその財貨の利用収益の権利が譲受人に移転した時期と把握するのが、法人税法の立法趣旨に合致し、相当と認められる。

弁護人主張のように組合員が再分譲代金を完済した時と解すると、その間、財貨の使用収益権は譲受人が有し譲渡人には何等の権利も存しないこととなるのであって、このような見解は到底とりえない。確かに組合には売買代金の一部が入金したのみで、残額は支払われていないが、法はかような場合に備えて六二条以下において特例を定めており、かような手続を履践しない法人が不利益を被るのはやむをえないところである。

以上の点から明らかなように弁護人の主張は採用の限りではない。売上の計上時期については組合員が各土地の引渡しを受けた時と解すべく、売上額は、検察官主張額どおりを認定する。

二  次に弁護人は検察官が主張している組合員が組合を脱退した時に土地仕入れとして計上している分について、組合員の脱退ではなく、組合員の地位の譲渡にすぎず、土地仕入れを計上することは許されないと説く。

しかし乍ら、組合の定款によれば、組合員は、一定の条件を充たす者のうち組合の承認をえて加入した者に限られ(八、九条)、予め組合に通知したうえ事業年度の終りにおいて脱退することができ(一二条)、その際持分の払い戻し(一四条)が認められている。従って、弁護人の主張する組合員たる地位の譲渡も旧組合員の脱退、持分等の精算、新組合員の加入、持分の払い込み、再分譲地についての頭金、割賦金の支払いを要するものであって、組合の関与なしに組合員が非組合員に自由にその地位を譲渡することが許されないのは勿論である。(中小企業等協同組合法一七条も同様と解される。)組合員の脱退に伴う精算により、組合は組合員の支払った持分の払い戻し、土地再譲渡代金中支払済の金員の返還を要するとともに、組合は再分譲した土地の返還を受けることとなり、これを期中の土地仕入れとして計上するのは正当である。よって、この点に関する弁護人の主張も理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも行為時においては、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては、改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、いずれも所定の懲役と罰金を併科し、情状により法人税法一五九条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑につき、同法四八条二項により罰金額を合算し、加重をした刑期及び合算した金額の範囲内で被告人を懲役六月及び罰金二〇〇〇万円に処し同法一八条により右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部被告人の負担とする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 金山薫)

別紙(一) 修正損益計算書

自 昭和52年4月1日

至 昭和53年3月31日

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

自 昭和53年4月1日

至 昭和54年3月31日

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

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